ヒゼンダニ(疥癬虫)とは?
~疥癬(かいせん)の原因となるダニの生態と感染のしくみ~
疥癬(かいせん)は「ヒゼンダニ」という小さなダニが皮膚に寄生することで起こる皮膚病です。人にしか寄生しないこのダニは、目に見えないほど小さく、皮膚の中にトンネルを掘って潜り込むという特徴的な行動をします。
▶ ヒゼンダニの大きさと形

- 成虫のメスは 約0.4mm(400μm)
- オスはメスより小さく、約60%のサイズ
- 卵形に近い体をしており、皮膚に穴を掘って生息します
▶ ヒゼンダニの一生と繁殖サイクル
1匹のヒゼンダニの一生は以下のようなサイクルで進行します:
- 卵を産む(1日2〜4個、4〜6週間)
- 卵は3〜5日で孵化
- 幼虫 → 若虫 → 成虫と成長(脱皮を繰り返す)
- 約10〜14日で成虫になり繁殖開始
成虫のメスは角質層の中に「トンネル」を掘って進みながら産卵し、寿命を終えます。
▶ ヒゼンダニの居場所と栄養
- 皮膚の表面や角質層内、毛包(毛穴)などに生息
- 吸血はせず、皮膚の滲出液や組織液を栄養源として生きています(※詳細は未解明)
▶ ヒゼンダニの弱点
- 乾燥や高温に弱い
- 皮膚から離れると数時間で感染力が低下
- 50℃で10分間の加熱で死滅する
▶ ヒゼンダニの感染経路
主な感染経路は 肌と肌の直接接触です。
また、まれに寝具やタオルなどを通じた間接感染も起こることがあります。
特に、免疫力が低下している方や高齢者では重症化しやすく、集団感染のリスクも高まります。
▶ 通常疥癬と角化型疥癬の違い
| 種類 | 特徴 | ヒゼンダニの数 | 感染力 |
|---|---|---|---|
| 通常疥癬 | 健康な人に多い。夜間のかゆみ。手指、手首、腹部などに赤い湿疹や疥癬トンネルができる | 数匹〜十数匹程度 | 比較的低い(密接な接触で感染) |
| 角化型疥癬(痂皮型) | 高齢者・免疫低下者に多い。皮膚全体が厚くゴワゴワに。かゆみがないことも | 数百万匹以上 | 非常に強い(接触なしでも感染) |
特に角化型疥癬では、空気中に舞った角質や落ちた皮膚片からも感染が広がる恐れがあり、早期発見・治療・隔離が重要です。
▶ 潜伏期間と発症タイミング
- 感染から1〜2か月後にかゆみや皮疹が出る(高齢者では数か月かかることも)
- 感染初期は無症状なことが多く、気づかないうちに広がることもあります
- 角化型疥癬では**潜伏期間が短く(4〜5日)**急速に発症する場合があります
▶ 疥癬トンネルとは?
ヒゼンダニのメスが角質層内に掘り進んだ「トンネル状の跡」で、
- 白っぽい線状の皮疹(0.4mm幅)
- 手指、手首、外陰部、腹部などに多く見られる
- かゆみを伴い、虫体の検出率が高い特徴的な所見です
疥癬の治療薬について
疥癬は「ヒゼンダニ」による皮膚感染症ですが、確実に治療できる薬があります。
症状や体の状態に応じて、医師が内服薬または外用薬(塗り薬)を選択して治療を行います。(表1、日本皮膚科学会疥癬治療ガイドライン(第 3 版)より引用)1~2週間隔で2回連続してヒゼンダニを検出できず、疥癬トンネルの新生がない場合に治癒と判定します。潜伏期間が1~2ヵ月間であるため、最終観察日より1ヵ月後に治癒判定を行います。ただし、ご高齢者や免疫抑制がある場合は再燃することがあるため、数ヵ月間は通院が必要です。

【内服薬】体の内側から治すタイプ(保険適用あり)
■ イベルメクチン(ストロメクトール®錠)
- 使用方法:体重1kgあたり200μgを1回服用(必要に応じて2回目)
- 作用:ダニの神経に作用し、麻痺・死滅させます
- 副作用:肝機能異常、発疹、中毒性皮膚症など
- 注意点:体重15kg未満の小児や妊婦には安全性が確立されていません
- 保険診療:〇(適応あり)
【外用薬】皮膚に直接塗るタイプ
■ フェノトリン(スミスリン®ローション)
- 使用濃度:5%
- 使い方:全身に塗布(特に首から下)、1回で治療完了の場合あり
- 副作用:発疹、AST/ALT上昇など
- 保険診療:〇(適応あり)
■ イオウ末
- 濃度:5〜10%
- 特徴:古くから使われる自然由来の薬。小児や妊婦にも使いやすい
- 副作用:皮膚炎など
- 保険診療:〇(適応あり)
■ チアントール(一般用医薬品のみ)
- 濃度:10〜30%
- 特徴:殺菌作用があり、皮膚症状にも有効
- 保険適用:×(自由診療)
■ クロタミトン(オイラックス®クリーム)
- 濃度:10%
- 特徴:かゆみを抑える目的で使われるが、ダニへの直接効果は不明
- 注意:広範囲使用や乳幼児への使用は避ける
- 保険適用外
■ 安息香酸ベンジル
- 濃度:6〜35%(薬局などでは販売されていない)
- 副作用:皮膚の刺激・神経障害など
- 注意:2歳以下は使用不可、妊婦は使用を控える
- 保険適用外
■ ペルメトリン(ELIMITE® CREAMなど)※日本未発売
- 海外では第一選択薬として使用されることも
- 日本では未承認
注意点と治療の流れ
- 内服・外用ともに、感染者本人だけでなく、同居家族や接触者の同時治療が必要です
- 衣類や寝具の洗濯・清潔管理も重要です
- 外用薬は首から下の全身にしっかり塗る必要があります(手足・爪の間も忘れずに)
対応
通常疥癬と角化型疥癬では感染力が大きく異なるため、対応も大きく異なります。
(以下はマルホ株式会社ホームページより転記)
| 対応 | 通常疥癬 | 角化型疥癬 | |
|---|---|---|---|
| 隔離 | 個室への隔離 (隔離にあたっては患者の同意をとり、人権に配慮する) | 不要 (徘徊患者や認知症患者では若干注意が必要) | 個室に隔離の上、治療を開始する。患者はベッド・寝具ごと移動する。関係者への周知徹底を図り、感染を拡大させないよう注意する。隔離期間は治療開始後1~2週間とする。隔離開始時と終了時に殺虫剤を散布する。 |
| 身体介護 | 手洗いの励行 (すべての感染症の予防の基本) | 必要 | 必要 |
| 予防衣・手袋の着用 | 不要 | 必要(隔離期間中のみ)使用後の予防衣・手袋は落屑が飛び散らないようにポリ袋などに入れる。 | |
| リネン類の管理 | シーツ・寝具・衣類の交換 | 通常の方法 | 毎日交換 |
| 洗濯物の運搬時の注意 (ビニール袋か蓋つきの容器に入れて運ぶ) | 必要 | 落屑が飛び散らないようにビニール袋に入れ、ピレスロイド系殺虫剤を噴霧し24時間密閉する。 | |
| 洗濯 | 通常の方法 | 50℃、10分間熱処理後洗濯する。洗濯後に乾燥機を使用する。 | |
| 居室・環境整備 | 患者がいた居室の殺虫剤散布 | 不要 | 居室は2週間閉鎖するか、殺虫剤(ピレスロイド系)を1回だけ散布。角化型疥癬の患者と同室であった方のベッドなどは角化型疥癬患者と同様に扱う。 |
| 掃除 | 通常の方法 | モップ・粘着シートなどで落屑を回収後、掃除機で清掃する。 | |
| 布団の消毒 | 不要 | 治療終了時に1回だけ熱乾燥、またはピレスロイド系殺虫剤散布後に電気掃除機をかける。 | |
| 車椅子・ストレッチャーは患者専用とする | 不要 | 隔離解除時に電気掃除機をかけるか、ピレスロイド系殺虫剤を散布。 | |
| 患者の立ち回った場所への殺虫剤散布 | 不要 | 1回だけ必要 | |
| 入浴 | 肌と肌との接触を避ける。タオルなど肌に直接触れるものの共用を避ける。 | 入浴は最後とし、入浴後は浴槽や浴室の床や壁を洗い流す。脱衣所に電気掃除機をかける。患者についている角質層はブラシなどを使いしっかり落とす(例えばお湯をはった浴槽内でこするなど)。 | |
| 予防的治療 | 複数の疥癬患者が発生した場合や集団発生の場合には、患者だけでなく、接触した可能性のある方にも治療を行うことを検討する。ただし、確定診断がついていない方への薬剤の投与は保険適用ではないため、インフォームドコンセントを取得して治療するなどの対応を行うことが望ましい。 | ||
当院では、日本皮膚科学会の「疥癬診療ガイドライン」に基づき、
顕微鏡検査による確定診断・保険適用の内服薬や塗り薬による治療を行っています。
かゆみが長引いている方、湿疹が治らない方はお気軽にご相談ください。


















